民族主義:
19世紀の初め、ロマン主義思潮の勃興とともに民族的自覚運動が盛んにな
り、口碑(昔からの言い伝え:まるで碑に刻みつけたように口から口へ永く世に
言い伝わるの意)、伝説、民謡などが探索され、1822年に詩人トペリウス(1818-98)
の編集した民謡集が出版された。しかし、フィンランド人を最も驚かせたのは
1835年に出版された、エリアス・リョンロット(1802-84)のカレワラであっ
た。
当時、医師だったリョンロットは、フィンランド古語の研究や伝説たん詩(
バラードの訳語:故事、伝説を題材とする詩)の収集に興味を持ち、フィンラン
ドの田舎や、ロシアのカレリア地方、イングリア地方(サンクト=ペテルブルグ
周辺)まで探しまわり、口碑や歌を収集した。そして集めたものの中から、内容
に関連のあるもので叙事詩的なものを編集し、約3%ほど自作の詩を加えて出版
した。それがカレワラである。(初版2巻32章。増補版50章。)カレワラと
は、「カレワの国」という意味で、カレワは、それらのたん詩の中に出てくる主
人公らの祖先の名である。
現在、カレワラはリョンロットの創作と見なされているが、当時は、フィン
ランドの古代を反映した歴史と解釈され、フィンランド人に民族としての誇りを
与えるものとなり、彼らはそれを励みとした。
さらにリョンロットは、集めたものの中から抒情的なものを選び、カンテレ
タル(KANTELETAL)という題で1840年に出版した。カンテレはフィンランド固
有で、カンテレタルとは、「琴を弾く娘」という意味である。
あらすじ:
物語は、世界の創造と、ワイナモイネンの誕生で始まり、フィンランドを象
徴するカレワラ国と、暗黒と邪悪の力を持つポホヨラ国の間で、権力と富を争い
が繰り広げられる。
特徴は、カレワラの中では智は剣に勝り、文は武に勝っており、しかも智や
文は音楽に表されている所。世界の大叙事詩がみな、騎士物語や戦争物語である
のに対し、カレワラの中には騎士が一人も登場しない。またワイナモイネンも武
器ではなく、歌や音楽の力で他を征服する。
起源:
フィンランドでは冬が長く、その間ほとんど室内にこもっていなければなら
ないので、いわゆる炉端談話が盛んになる。人々は経験したいろいろな事、想像
した事を語り合い、おもしろいものは語り広げられ、また子から子へ、孫から孫
へ伝えられる。それらの伝説や話は、時には談話の形式をとったり、節をつけて
歌われたりもする。カレワラの中の詩や歌は、7ー10世紀頃の多くの百姓や、
漁師、漁民によってつくられた。そのため、他国の多くの大叙事詩の主人公らが
地位の高い王侯貴族将相であるのに対し、カレワラの主人公らは、庶民の農夫、
漁師、漁夫、鍛冶屋などである。
カレワラの歌をうたう時:
専門の吟唱詩人は一人で歌うが、一般民衆は、二人が向かい合い、右手と右
手、左手と左手を握りあい、それを振りながら歌う。
伴奏にはカンテレが用いられる。この楽器は、カレワラの中ではワイナモイ
ネンが造ったとされている。彼が、ポホヨラ遠征に出かけた時、船が巨大なぐつ
の背にのりあげ 動かなくなった。彼は、この魚を殺し、その顎骨で琴を造り、
糸巻きには魚の歯を使い、弦には馬のたてがみを用いた。
カレワラに見出される宗教は:
かつてウラル=アルタイ系諸民族に広がり、今もトルコ、蒙古、ツングース
などに残っているシャーマニズムに属するものであり、その考え方によれば、こ
の中では吟唱詩人であり、カンテレを奏して人間、鳥獣木石など森羅万象を酔わ
せる大音楽家、ワイナモイネンがもっとも偉い人間である。
(MIKI)