7月1日
朝から、小雨が降っている。少し肌寒く、7月に入ったなんて嘘のよう。泊
めていただいたお礼に、お昼ごはんは肉じゃがを作ることになり、雨がやんでい
る間に、シルッカ=リーサと子供達と一緒に歩いて買い物に出掛ける。醤油は、
シルッカ=リーサがたっぷり持っているので大丈夫。(フフティネン一家は日本
食が大好きなのだ!)ちなみにフィンランドでも、ヘルシンキのストックマンな
どの日本食を売っているデパートに行けば、醤油は手に入る。
この辺りは牧場が多いためか草地が目立ち、空気も雨のせいかみずみずしい
。歩いている途中で、黒色を基調に白い線が入っている家を見つけた。これまで
見たフィンランドの家の色は、ワインレッドを基調に白い線が入っているものが
多かったので、珍しく感じる。黒なのに重さは感じられず、スマートな感じでと
ても良い。窓にはレース編みの飾りがあったりして、それだけでその家庭の暖か
さが感じられるようだった。
家に戻って、早速昼ごはんの準備。なんとこの家には、炊飯器があるのだ!
一瞬見過ごしてしまいそうになるのだが、「おぃおぃ、ちょっと待てよ・・ここ
はフィンランドだったよなぁ?!」と思い直すと、かなり妙である。この炊飯器
は、ペッカさんたちからの日本土産なのだそうだ。フィンランドでは、カレリア
ンピーラッカにご飯を入れたり、プーロと呼ばれるミルク粥のようなものを朝御
飯に食べるので、スーパーなどで手軽にお米が手に入る。味もまずくない。(と
は言っても、毎日、日本でおいしいお米を食べている人にとっては、多少は味が
落ちるだろう。幸い?!私はそういう人ではないので・・・)それにしても、日
本からずいぶん離れた北の国の家庭で炊飯器が使われているなんて、やっぱりな
んだか笑えてしまう。
メインの肉じゃがも美味しくできたし、「さぁ、お昼ですよぉ〜!」
夕方、フフティネン一家とクリスティーナカウプンギの夏小屋へ出発。
フィンランドでは、大抵の人が夏小屋を持っている。夏はそこで、本当に自
然にとけ込んだ暮らしをするのだ。もちろん、冬もそこで暮らせるように作って
いる人もいるが、多くの人は、電気もガスも水道も引かずに、そこにあるがまま
の自然な状態を楽しむ。だから、あえて私は別荘とは呼ばない。日本には、「別
荘=お金持ちの贅沢」というイメージがあるからだ。「夏小屋だって、贅沢だ。
」と言われるかも知れないが、そこにはあえて普段より不便な暮らしを求めて行
くのだから、日本のイメージとはやはり少し違うと思う。でも、これぞまさに本
当の意味の贅沢である、「心の贅沢」なのかもしれない。
| 夜7時頃、到着。フフティネン家の夏小屋も、多くの例に漏れず森の中にあ
る。子供達の、「やったー!着いた!!」の声や、みんなの笑顔から、本当にこ
こに来たかったんだという事がビンビン伝わってきて、私までワクワクしてくる
。車道からはずれ、細いでこぼこ道を森の中へ車でゆっくり進む。まだか、まだ
か、と思うほど、どんどん奥まで入ってゆく。そして、ついに夏小屋が見えた!
自然のままに生えている草地に、クリーム色の大きな木造の家、古い物置、そし
てワインレッド色の小さな小屋が4つ点々と建っている。そこは、想像以上に自
然のままで、どこからが森で、どこが庭なのか区別がつかなかった。いや、そん
な感覚は、ここでは無意味なのだろう。それほど、森にとけ込んでいる。私の口
からは、「うわぁー、すごーい。」と、ため息混じりの言葉が無意識に出た。 |
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車の窓に、ものすごい数の蚊が寄ってきた。蚊の多さは、噂には聞いていたが
、これもまた想像以上である。
日本の蚊の2倍ほどの大きな蚊が、すき間なく飛んでいるのだ。「昨年より、
増えたねぇ。」と、アンナ=リーナが、いたずらっぽい笑みを浮かべて私を見る
。私は、蚊が大っ嫌いなのだ。これは車から降りるのに、かなりの勇気がいるよ
うだ。でも、いつまでも車の中に居るわけにもいかない。「えいっ、仕方ない。
」と、思い切って外に出ると、とたんに蚊の大群が襲ってきた。「もーっ、いや
だぁー。」私は、常に体を動かしながら、両手で顔や頭に寄ってくる蚊を追い払
わなければならなかった。小屋の鍵が開くのを待つ間中、ずっと私がそうしてい
るのを見て、みんな大笑いしていた。「早く鍵を開けてーっ!」
家の中に足を踏み入れると、木のきしむ音がして、古い家に入った時みたい
な懐かしさや、うれしさ、何かが起こりそうな期待が入り交じって、ワクワクす
る。家の外側はもちろん、家の中の道具などほとんどが手作りなのだ。フフティ
ネン家の子供達も、うれしくって興奮している。
さて、これから暗くなる前にすることがたくさんある。夜7時とはいえ、ま
だ明るいのは、こういう時助かる。でも、今日は雨のため少し薄暗い。おまけに
電気はないから、せめて眠るための準備だけは、急いでしなければならない。子
供達は、自分の部屋にある懐かしいものを出して見せてくれたり、どんな風に模
様替えしようかと考えたりで、ものすごくにぎやかだ。さっきまでの疲れなんて
、一気に吹っ飛んでしまったようだ。
夕食を食べて、今日はすぐに休むことになった。みんな、明日はまず何をし
ようかと考えると、興奮して眠れなくなりそうだったが、明日のためにも、ゆっ
くり休まなければ!
7月2日 家の整理や、庭の手入れなど朝からみんな大忙し。こういう仕事は本当に楽 しいし、生きてるって感じがする。日本にいるときフフティネン家のみんなが、 「夏小屋に行ったら、したいことが山ほどある。」と、それぞれにあれこれ計画 していた理由がやっと分かった。ここでは、誰もが時間に縛られず、自分の時間 で動くことができる。余計なストレスは全く感じない。休日を好きなように取る ことができない日本の人々や、ストレスに押しつぶされそうな日本の子供達にと って、今必要なのは、多分こういう時間だろう。それも1日や2日じゃなく、せ めて1ヶ月は必要だと思う。 ここの夏小屋のそばには、海がある。夏とはいえまだ寒いので、泳ごうとい う気は起きないが、小舟に乗ったり、カヌーに乗ったりして遊ぶのは楽しい。フ ィンランドの海は、あまり塩のにおいがしなくてさわやかだ。景色も素晴らしい 。でも相変わらず蚊が多いのには、まいる・・。「サウナからここまで走ってき て、泳ぐんだよ!」と、みんなが教えてくれる。今日は、念願の薪サウナに入れ るらしい。「やったー!でも本当にここまで走ってくるの?だって、サウナ小屋 から森を突っ切って、50m位はあるんじゃない?それに今日はすっごく寒いよ 。」と私が言うと、みんなは、「楽しいよぉーっ!」だって。本当かなぁ・・。 |
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夕方、サウナの時間。念願の薪サウナだ!まずは、シャワーで体をぬらす。 もちろん水道はないので、シャワーも手作りである。でも、これが本当に工夫し てある。少し高めの台の上に、水の入った大きなタンクがあって、そこから長い ホースをつたって自然に水が流れてくる。どうやって水を止めるのかというと、 ホースは電気スタンドの首に巻き付けてあるので、それを持ち上げれば水は止ま るし、ホースも固定される仕組みになっているのだ。なんてユニーク!夏小屋は 、アイデアでいっぱいだ。 薪サウナは、部屋いっぱいに木のにおいがして、なんだか落ち着く。薪が燃 える、パチパチッという音の効果もあるのだろうか。かなり温まったので、いよ いよ海へ。水着を付けて外へ出たものの、寒くて足がすくむ。でも、エイッと思 い切って海へダッシュ!7月とはいえ、海はまだ寒い。今年は異常気象のようだ 。それでも、みんなはどんどん海に飛び込む。「あー寒いよー。嫌だよーっ。」 と泣き言をいいながら、足の付け根までで断念。あまりの冷たさに絶えかねて、 サウナ小屋へ猛ダッシュで引き返す。「だめじゃなーい。フィンランド人になれ ないよ。」と、アンナ=リーナは言うけれど、「だって、冷たいんだもん・・。 」このあとしばらくの間、この時に泳がなかったことを言われ続けた。 |
7月3日 私が、サヴォンリンナでフィンランド語のサマーコースを受ける日が近づい てきたので、町へ電車の時刻などを調べに行く。クリスティーナカウプンギには 駅がないので、近くのセイナヨキの駅から電車に乗ることになりそうだ。フフテ ィネン一家と離れて一人立ちする日もいよいよ間近。あーぁ、不安。 帰りに、町の教会へ少し立ち寄る。この教会は木造で、とても古い。屋根に は、薄い木片が何枚も張り付けてある。床は、歩くと古い木造の学校みたいに、 ミシミシッ、ときしむ。とても素朴で地味だが、そのことで、かえってこの空間 に親しみが持てる。心に一瞬、新鮮な空気が入り込んできて、無心になったよう な気がした。 今日のお昼ご飯は、少しごちそう!昨日が、マリ=カイサの「マリ」の日だ ったので、今日はそのささやかなお祝いだ。フィンランドのカレンダーには、一 日ごとにひとつか、ふたつの名前が書いてある。大抵の人の名前が、カレンダー の中にあるので、特に子供の頃は、誕生日と名前の日と両方お祝いしてもらえる 。楽しいお祝いが多いのは、うらやましい。 |
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7月4日
しかし、寒い。雨もよく降るし、毎日セーターが手放せない。暑い夏もある
そうだが、今年は例年になく寒いそうだ。 7月の下旬から北端のウツヨキへ行
くので、セーターや、ダウンジャケットなどを買いに行く。7月でもお店にセー
ターが売っているなんて、日本では考えられないことだろう。ハルパハッリ、と
いう何でも安く売っている店で服を買った。小柄な私に合うサイズがなくて、本
当に苦労した。
今後の旅のことを考えると、不安で押しつぶされそうになる。一番の問題は
、言葉。サマーコースでついていけるかどうかだ。
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7月5日 クリスティーナカウプンギでの最後の日。マリ=カイサとアンナ=リーナは 、朝から遊び小屋の掃除に余念がない。フィンランドの子供達は、こういう小さ な遊び小屋を建ててもらって、本物の家さながらに、中でままごとをしたりする 。今ではもう、大きくなったマリ=カイサやアンナ=リーナにとって、この小屋 は小さすぎるのに、彼女たちは、思い出の詰まったこの場所が大好きなようだ。 壁を白く塗り直して、模様も書いて、素敵に仕上がった。 夕方、この遊び小屋でパーティーを開いてくれた。2畳もないスペースに6 人もの人が入って、ぎゅうぎゅう詰めだけど、楽しい。おやつは、マリ=カイサ とアンナ=リーナお手製の、ふきに似た植物の茎で作ったゼリーよせ。おいしい ! |
7月6日
いよいよ今日からは、一人旅。セイナヨキの駅まで、みんなが見送ってくれ
た。切符は、電車の中で車掌さんが切ってくれるので、ホームから電車に乗り込
んでしまえばよい。みんなとは、また合う約束をして、いざ出発!
| まずは、セイナヨキからタンペレを通って、リーヒマキへ向かう。リーヒマ
キで電車を乗り換えて、次はパリッカラへ。そして、パリッカラからバスに乗っ
て、目的地サヴォンリンナに到着。 西から東へ、8時間半の長旅だ。車内は、日本の新幹線のようなつくりだが、 新幹線よりは座席間が広いので、ゆったりしている。車窓から見える景色がだん だん曇ってきた。やっぱり今日も雨になるようだ。私は、正真正銘の雨女だなぁ 。 |
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緊張しながら、リーヒマキで電車を乗り換えた。指定席なのだが、私の席に
は、さめた顔をした若いお兄ちゃんの伸びた足がのっかっている。「ここは私の
席じゃない?」と、こわごわ自分の切符を見せると、その人は急に起きあがって
、「違うよ。多分それは隣の車両だと思うけど、見てきてあげるよ。」と言って
、隣の車両へ行って見てきてくれた。「やっぱり隣だよ。」と言う彼に対して、
私はお礼を言いつつ、「人は見かけじゃないなぁ。」と心の中で思い、謝った。
隣の車両に行くと、私の席の隣には男性が座っていた。うれしいことに、こ
のおじさんが、またとってもいい人だったのだ。 彼は日本へ仕事で行ったこと
があって、日本には良い印象を持っているようだった。私達は、英語とフィンラ
ンド語を混ぜ合わせてずっとしゃべり続けた。私が、「フィンランドの民族音楽
に興味を持っていて、フィンランドのクリスマスの歌も歌ったことがあるよ。」
と言ってその曲を歌うと、「そう。他にもこんな曲もあるよ。」と言って歌って
くれたりして、思い出した曲を次々披露してくれた。そしてなんと、「日本の曲
も聞かせてよ。あっ、ちょっと待って。録音するからね。」と言って、テープレ
コーダーとマイクを取り出し、音声チェックをし始めたのだ。これには笑ってし
まった。結局、マイクの調子が悪かったので録音できなかったのだが、私も日本
の曲を何曲か披露した。一体周りは、小声で歌を歌い合う私達をどう見ていただ
ろう?その時の光景を思い出すだけで、笑えてくる。
他には、人の絵を描いて、からだの部分それぞれをフィンランド語でなんと
いうかを教えてもらったりした。 そうこうしてる間に、パリッカラに着いてし
まった。そのおじさんは、電車の外まで私の荷物を運んでくれて、「良い旅を!
気を付けて。」と言って、心配そうに見送ってくれた。「会ったばかりの人が、
こんなに親切にしてくれるなんて。」不安だった私の心に、勇気がわいてきた。
リュックを背負い、重いスーツケースをゴロゴロ引きながら、バス乗り場に
向かって歩いていると、若い女性が、「手伝ってあげるわ!」と、私のスーツケ
ースを持ってさっさとバスの方へ行ってしまう。あまりに突然で驚いたが、助か
った。よほど、私がだるそうに引っ張っていたのだろう。「ありがとう。」と言
うと彼女は、「大したことじゃないわ。」という風に、シャイに微笑んだ。彼女
も、同じバスに乗って、サヴォンリンナへ向かう人だった。どうしてこの国の人
は、こんな風に自然に親切にできるんだろう。重い鞄を持って階段を上っている
時も、両手がふさがってドアを開けにくい時も、たいてい誰かが、当たり前のよ
うに手を貸してくれる。孤独な旅人にとって、それは本当にうれしいことだ。
サヴォンリンナの駅で、アウネさんが待っていてくれた。バスが遅れたので
、心配していたようだ。アウネは、もう80歳を越えているけど、元気だ。これ
から4日程、彼女の家でお世話になる。 雨も上がり、サヴォンリンナの町は明
るかった。朝10時半頃出発して、今は夜の7時。長く、そして、いろんな人に
会えた一日だった。
つづく・・・
「ゆくゆくあるいてフィンランド」バックナンバー:
旅日記〜6月編
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